彼とはじめてセックスをした、それはとても不器用で愛しいものだった。わたしは目を覚まして一番先に見えた人間の表情に、そっと息をつく。眠っている彼はまだ少し幼さを残して呼吸を繰り返すだけで、その瞳はわたしを見つめない。一体どんな夢を見ているのだろう、そこにわたしは一瞬でもいるのだろうか。彼の柔らかな長い睫毛が微かに震える。しかし、目を覚ますことはない。それはすこし寂しかった。それでも、わたしはただそっと瞬きを繰り返す。剥き出しにされ愛されたからだもそのままで、じっと、色んな事を考えた。彼のこと。自分のこと。彼を好きな、人たちのこと。そうして足音を忍ばせて自己嫌悪が近寄ってきた頃、ふっと、彼の赤い瞳がわたしを捕らえる。かち合った視線はびくともしない。

「せつ...な...?」

彼は何かを思案するようにわたしを見つめた。布団の温かさがじわりと滲む。わたしの心が温まる。陽差しが揺れて、雲が流れる、鳥が鳴く。隣の部屋のドアが開いて、元気な少女と少年の声がゆっくりと遠ざかっていった。優しい静寂が辺りを包んで、時間を止める。

「なんだ」




一番近くで、最も愛しい声がした。








かみさまのまばたき
012409