瞬きの度に流れ落ちていったものは、星などではなかった。力強い腕に抱かれて、荒い息を肌に感じて、強く目を瞑る。ぱたた、とシーツに雫が落ちる。視覚を遮断すると、繋がった部分の奏でる音へと意識が急激に向いた。恥ずかしかった。ぎゅうと彼の首に腕を回して抱きつく。落ち着かない息の合間に、小さく微笑う気配がする。その事に少しムッとして、わたしは恥ずかしさと悔しさと愛情を込めて、彼の首筋にキスをした。肌が触れ合って、強い鼓動が直に伝わる。それはまるで肢体の中に心臓が2つあるような不思議な感覚だった。肢体は火がついたみたいに熱かったが、しかしそれは彼も同じであった。だから恐怖心はない。彼なら平気だと、いつの間にか肢体が覚えた。圧し殺しきれなかった声が微かに漏れて、彼が一層強くわたしの肢体を引き寄せる。名前を呼ばれて、わたしは息を詰める彼の上で小さく震えた。すると、突然愛しさが溢れ出して、わたしの胸を締め付ける。抱き締めても抱き締めてもまだ足りない、この感覚がもどかしい。溜息をついて、瞬きをする、ぽたりと何かが流れて落ちた。


「...刹、那」
「....辛いのか?」
「ううん」

わたしの涙を親指の腹で拭って、少し躊躇うように、刹那は薄っすらと微笑んだ。それを合図に、少しだけ肢体を離す。引き抜かれる感覚に、わたしは小さく声を上げた。すぐに、欲望が後を追うように滑り落ちてくる。そのせいで再び恥ずかしさがわたしの頬を火照らしたが、それも赤い双眸がこちらを見つめていることに気付くまでの間であった。わたしの視線に気が付くと、彼は一度瞬きをして、真っ直ぐにわたしを見据えたままで呟く。

「俺はこの戦いが終わった後も生きているだろうか」

とても寂しい響きをしていた、それは酷く単純な問いであった。わたしはすぐに答えようとして刹那を見たが、何だか不意に自分の持っている答えが違う気がして、そのまま答えを言わずに俯いた。恐らくは、わたしを含めわたしの知り合いはみな何らかの制裁を受けるだろう。何しろテロリストだ。敵と名付けた人間を殺すエゴイストが、非難されずにのうのうと生きられるわけがない。しかし、テロリストだからといって生きてはならないかと言われたら、そんな極端なことでもない気がする。みんな死ぬ時は死ぬし、逆に何らかの形でその時が訪れるまでは生きていなければならない。生きるか死ぬかなんて本当はその程度の差のものなんだと思う。きっと生と死を分ける見えないラインが引いてあって、生物と死物の差は一センチくらいしかないんだろう。だから、わたし達はついさっき生命力に満ち溢れた行為をしたが、彼の言葉はその行為のひとつ先に横たわっているものを見つめていた。手を伸ばして、彼の腕の中に滑り込む。強くはないがしっかりと抱き留められて、毛布を掛けられる。わたしは再び刹那の顔を見た。そうして小さく微笑む。なんにしろ、嬉しかったのだ。例え彼の言葉がなにを示していようと、わたしは嬉しかった。彼が、未来を見つめている。

「生きてるんじゃない」
「...適当なことを言うな」
「じゃあ、言い直すわ。生きていてもらわないと、困ります」
「困る?」
「だって、そうじゃなきゃあたしの人生計画はあんたのせいでめちゃくちゃよ」
「待て、お前はお前の無謀な計画に俺を巻き込むつもりなのか」
「やあね、刹那ったら、今更何言ってんの」









僕らは随分昔にPSRを通過した
012809