浅い夢から目覚めてすぐに、わたしはぼんやりと、瞼を閉じたままベッドの上で思案した。戦争の火花というものを、わたしは今までに一体いくつ、目にしてきたのだろう。とはいえ、十代の頃から戦争区域で働いてきたのだから、少しばかり考えたところで、その正確な数などもはや分かるはずもない。それでも、幾度と無く考えては、幾度も答えを得ることに失敗する、その行為を、わたしは飽きることも無くずっとずっと繰り返していた。そうして気が付けばその問いは、いつからか問うことそれ自体が、懺悔の形を具していた。問うことで己に残された、ほんの僅かな清き部分を守ろうとでも、いうのだろうか。わたしは息を吐くように鼻で笑った。こんなとき、雨が降っていたのなら、きっとわたしはその思考をさっさと雨の所為にしていつも通りの朝を迎えられただろう。だがここは天候の力などまるで及ばない真空の世界だ。雨など降るはずも無い。雨以外に、この思考を追いやる上手い口実も見つからないまま、随分と長いこと何かから息を潜めるように浅い呼吸を繰り返すと、不意に温かでやわらかなものが、そうっとわたしの頬に触れた。ゆるゆると瞼を持ち上げれば、心地良い朝の暗闇の中で、それは僅か煌く黄金の双眸をもってわたしを見つめていた。迷いも、歪みも、恐れもない、それの放つ輝きは、何色であってもまったく変わらずうつしい。しかし、今のわたしには、それが持って生まれてきた本来のうつくしさが、とても恋しいように思われた。わたしは、今日という日の初めての言葉を、目の前の人間の名前に宛がう。ソランという、何より愛しい者の名前に今日もまた、はじめて触れる。それは、わたしの望み通りの音になる。それは、彼の瞳を和らげる。それは、余韻を残して空気に溶ける。わたしの音を聞いたのち、何も言わずにわたしを自身の體へと引き寄せた、ソランはそのまま仰向けになって、わたしを彼の温かな體の上に乗せる。わたしは言うべき言葉もなく驚いて、刹那、といつも通りの名前で彼を呼んだ。しかし、急いで彼の上から退こうとしたわたしの體を、彼は何も言わずにそっと押さえつける。そうして押さえつけた片手を、そのままわたしの腰元に添える。静かな呼吸のあと、ようやく彼は掠れた小さな声音で、「お前の重みを覚えておきたい」と呟いた。わたしはなにか熱いものが喉を焦がすような感覚を味わって、堪え切れずに雫をこぼした。ああ、きっと彼も、わたしと同じ様な懺悔を、幾度も幾度も、繰り返しては雨の到来を、待ち望んでいたに違いない。





Rain or Shine


02032010