からからと軽やかな笑い声が響いている。久しぶりに地球に戻ってきていたは、同僚であって恋人であるニールと共に自宅で酒を嗜んでいた。有名なシャトーのセカンドラベルのワインが何本かテーブルの上に並んでいて、はソファの上でニールに寄りかかるようにして座っている。ニールはというと、そんなにも慣れた様子で、の話に耳を傾けながらとてもやさしく彼女の体を抱きとめていた。柔らかなソファに深く身を沈めて、落ち着いたオレンジの照明に包まれる。隣には愛する人がいて、好きなワインを好きなだけ飲める。愛しくて、満ち足りた久しぶりの感覚だ。二人の向かいにあるテレビでは、が子供の頃に見たクリスマス映画が流れている。クリスマスの時期でも何でもないのに、なぜこの映画が放送されているのだろうということは些か疑問ではあったが、それでもは懐かしい気持ちでその映画を見つめた。不思議な心地だった。小さな頃に両親と観た映画を、今は愛する人と観ている。それが、何だか不思議でしょうがない。

「昔ね、この映画、パパとママと観てたの」
「へえ?」
「お気に入りだったのよ」

がそう言って顔をあげると、ニールは少しだけ首を傾げて笑う。優しい笑い方だ。父親が娘に向けるような、それでいて、愛しい恋人を見つめる瞳が、を映す。体に回されたニールの腕がやんわりと肩を撫でる。はそうっと溜息をついた。思えば、自分の人生はいつも誰かに守られていた。幼い頃は父親に守られながら母親に育てられたし、親の手を離れ大人になった今は、愛する男が両親からそれを引き継いで自分を支えてくれている。ありがたいことだとは思った。

「なあ」
「なに?」

は視線を動かさない。ふと歓声が上がるテレビを見れば、画面にはサンタクロースに扮した父親が映っていた。ニールはじっとそれを見つめながら、持っていたグラスを口元に運んで、一口、葡萄色の液体を喉に流し込む。

「いつまでサンタクロースを信じてた?」
「わかんない、5歳か6歳くらいじゃないかな」
「5歳?さてはおまえ、相当可愛くない子供だったんだろう」
「うるさいわね」

くつくつと笑うニールを軽く小突いて、は小さく唇を尖らせた。それを見、ニールはごめんと笑って、の頬を撫でて唇を掠め取る。二、三度ニールがそれを繰り返すと、二人はまた元通りに笑い始めた。がグラスの中のワインを呷る。コン、とグラスがテーブルに当たる軽い音がした。ニールのワイングラスは手持無沙汰な彼の手にくるくると回されている。

「でも、思えば、パパには騙されっぱなしだったわね」
「サンタクロースの他にもか?」
「もちろんよ。最初は5歳の時のサンタクロース、次は誕生日にプレゼントをくれる神様、そんで最後、コウノトリまでパパだったっていうんだから。あの時はショックだったわ」
「...普通のやつはコウノトリまで考えないぞ」
「あたしは考えたのよ」

もちろん、コウノトリについては、学校で教わった事であったし、そういう嘘をついたのは父親ではなくて母親の方であったけれども。は少し声音を強めて言う。ニールは堪えることもなく笑ってそれを見守りながら、そっと持っていたワイングラスをテーブルの上、が置いたグラスの横に静かに並べた。その際に、ニールが「じゃあ、」と言ったので、再び唇を尖らせていたは反射的にテレビへと向けていた意識をニールに向ける。

「今度は、俺がのコウノトリになってやらないとな」
「え」

ひどく面白そうに笑ってニールが言うので、は頬を染めて咄嗟にニールから身を離した。テレビからは相変わらず、子供たちの歓声や父親が演じる精一杯のサンタクロースの声が聞こえてくる。今この部屋が無音でなくて良かった。は心底そう思った。心臓がどきどきしていて、嬉しいのか恥ずかしいのかもよくわからない。ただ、嫌ではないことだけは確かだったので、は小さく、そのうちね、とだけ付け足して、降り注ぐやさしいキスを受け止めることにした。










マイ・ホワイト・ストーク

032009