イノベーターたちとの最終決戦が終わって、わたし達にもささやかではあるけれども、平和な時間が訪れていた。とはいえ、それはあくまで一般的な話だ。先の戦いがあまりに大きかったことで、わたしは戦いが終わった後もしばらくは、悪夢に魘されたり何でもない音に過敏に反応したりする落ち着かない日々を送っていた。もう何年も戦いの中に身を投じているというのに、こんな体験は初めてで、時々わたしは、まだ戦争が続いていてくれれば、或いはそちらのほうが楽だったかもしれないなどと可笑しなことを考えた。ふう、と息をついて、わたしはそれを馬鹿な考えだと一蹴する。そうして気分を変えるためにシャワーを浴びようと、部屋を出てシャワールームに向かった。夜中ということもあって、誰の姿も見えない。ただただ静かな艦内。通り過ぎる数々の部屋。知っている。わたしは、どの部屋にももはや住人などいないことを、確かに知っている。ニールのいた場所。ティエリアのいた場所。アレルヤがいた場所。そのどれもが、今は藻抜けの殻になっている。クリスティナや、マリーや、アニューも、もうこの艦内にはいない。みんな、それぞれの場所へと帰って行った。そうだ。みんな、もう、いない。わたしは改めてその事実を噛み締めた。空っぽになった部屋をいくつも通り過ぎて、シャワールームに入る。乱雑に服を脱いで下着姿になって、気持ちを落ち着けるために深呼吸をすると、鏡に映る自分の姿が目に付いた。今にも泣きそうな顔をした女がこちらを見ている。寂しいのか、とわたしはそっと彼女に声をかけた。しかし、彼女からも同じ質問が返ってくるだけで、返事はない。わたしは、会いたいのか、戻りたいのか、と彼女に訊ねた、彼女は、あまり可愛いとは言えない泣き顔で、再びわたしに同じことを問い掛けた。会いたいのか。戻りたいのか。しばしの沈黙が、真夜中のシャワールームを満たしていく、わたしは、ぼろぼろと涙をこぼしながら、うん、と言って頷いた。


041209
(あの頃は どこにいったの?)