は自身を貫く力強い感覚に、歓喜とも痛嘆とも知れない声をあげた。思わず瞑った双眸から、きらきらと輝きを放ちながら滴が落ちる。乱れる息で酸素を得て、そうっと目を開けると、一糸纏わぬ恋人の姿が目に入った。はそれを刹那、と呼んだ。闇しか見えない窓から僅か差し込む温度のない光が、照らし出す彼の表情は、とても切ない。心地好さそうな、少し苦しそうな、愛しい男の特別な表情。がそれに思わず胸をつまらせると、刹那は一瞬眉を顰めたのちに、細く長い息をついた。そうして、彼は先程のの声よりずっと低くて、甘い音で、「これ以上は俺の気がおかしくなる」と言って、に与えた自身のそれを徐に動かし始める。強く、弱く、速く、遅く、荒く、優しく、深く、浅く、刹那がの一番柔らかな肉に触れると、突き上げる度にの肢体がビクン、と跳ねた。ぎゅう、と締め付けてくる内側の力に耐えて、刹那はそっと、の零す涙にキスをする、熱い雫を舌先で掬って、幾度も自分の名前を呼ぶの唇を食む。「痛くないか」と聞いたら、は可笑しそうに笑って、「気持ちがいいわ」と言った。本当かどうかは、わざわざ聞かずともの様子を見ればよく分かる。濡れた唇に、汗ばんだ柔らかな体が、きらきらと僅かな光に反射する。刹那は不意に、ああ、自分は男なのだ、雄なのだ、と思った。事実、の体を見ると時々疼き出す感情のようなそれは紛れもなく、彼の中に備わっていた雄としての本能であった。何故求めるのか、刹那にはまるで見当もつかなかったが、しかし、求めているものが何であるかを、彼は誰に教わるでもなく理解していた。そしてそれが欲しい、と思った。森と静まった部屋に、の声が上がる。悲鳴ではない。痛がってはいない。刹那は耳を澄ませてそう思う。しかしそれでも、シーツをきつく掴むの手にほんの少しの杞憂が芽生えて、彼はやんわりとの手を包み込んだ。見れば、濡れた睫毛を震わせて、も刹那を見つめている。繋いだ手も、汗ばんだ体も、逸る心臓も、注がれる刹那の真っ直ぐな視線も、すべてが熱い、とは思った。ぽた、と一滴の汗が刹那の長い睫毛を伝って落ちる。ほんの少しの距離だというのに、の頬に落ちて流れる頃には、それはとても冷たくなっていた。何だかとても寂しくなって、は目の前の男の名前を呼ぶ。傍にいるのに、どうしてだか自分と刹那の間にはどうしても辿り着けない程の距離があるような気がした。しかし、まるで抑え切れないほどであろう欲望をそれでも何とか押し殺して、ただ静かに自分を見つめている刹那を見て、は思う。例えそのような距離が本当に二人の間にあったとしても、それでもきっと刹那は歩み寄ろうとしてくれるだろう、と。「刹那」とは言った。刹那はそれに答えるように小さく微笑んで、そうして、知り得る限りの最も深い場所へと自身を沈めた。繋ぎ合った、体が熱い。注ぎ込む熱を感じながら、刹那はの腰を引き寄せてそのまま、親指で柔らかな下腹部をぐ、と押す。「嫌」とは声を上げたけれども、その音が少しもその意味を含んでいないことを知って、刹那は「大丈夫だ」と言って与えたばかりの熱をさらに奥まで押し込んだ。すると、の体が再び大きく跳ねて、一際高い声が上がる。それは、とても美しい、二人の本能が導いた世界の終わる音だった。きらきらと、微かな光が音もなく差し込んでいる。薄暗い部屋は森としている。刹那は他人を愛おしい、と初めて思った。





本能の卵

050109