気が付いたらわたしは、彼の姿を見てぼろぼろと涙をこぼしていた。まるで何が起きているのか、当人であるはずのわたしにも頓と理解はできなかったが、嫉妬にも似た悲しみが胸を満たしていることだけは確かであった。暗闇に、情事のあとの気だるい意識を、そして突如わたしの心に満ちたこの得体の知れない感情を葬り去るように、わたしは強く瞼を伏せる。それでも、浮かんでくる様々な思いはどれだけの時間をかけても消し去ることなどできないように思われた。再び、大粒の涙がろくに頬を伝いもせずにベッドの上へと落ちていった。

刹那・F・セイエイは、わたしの6年来の想い人であり、もう何年もわたしと特別な関係を続けている不思議な男であった。争いを憎み、ガンダムを愛し、平和を望むこと以外に活力を注がない彼を傍に得られたことはまるで奇跡であったと未だに思う。例えばもし、もう一度人生を繰り返したとしても、彼を再び得られるかどうかは定かではない。寧ろ得られない可能性の方が格段に高いような気がして、思えば最初から、こうして彼に愛されるということは夢のような話であったのだ、とわたしは改めて自身の身に余る幸福を噛み締めた。わたしは傍で眠る刹那を眺めて、最後と決めた涙を落とす。2人で分かち合ってきたベッドから滑り出ると、暗闇は一層冷えてわたしの足取りを重くさせた。床に落ちた衣服を着て、ドアへと向かう。迷いを引き連れて部屋を出たわたしが、彼の安眠を確認するために室内を振り返ることは一度もなかった。





さよならにはすこしはやい日に




091810