ガンダムの整備をしている男を見かけて、わたしはそうっと格納庫の隅で立ち止まった。柔らかに揺れる栗色の髪に、緑の制服。わたしは彼の姿をただじっと見る。かつて全く同じ背格好の男が同僚だったが、こうして動いている様を見るとやはりその存在は全くの別物である。何より、不思議なことに、わたしは彼に恋をしていても、かつての同僚にはそんな気持ちを抱かなかった。何が違ったのかは、分からなかったが、強いて言うならそれはかかわり合い方の問題だったに違いない。あとは、彼らの性格の違いくらいだろう。ぎらぎらと白い光が高い天井から降り注ぐ。まるで太陽さながらのその光に目を細めながら再び彼に目を遣ると、彼は傍にいる小型ロボットに時々話しかけているようだった。無垢な笑いが格納庫の隅にまで響いた。わたしは彼の笑い声を聞きながらふと、彼が失った一人の女について考えた。敵のスパイだった女に惚れて、破滅の道を進んだ彼は、しかし結局最後には自らの手でそれを終わらせなければならなかった。女は、死んだ。わたしはそれを、映画を観るように傍観する第三者であった。今ではもう第三者と名乗ることを許されない、かつてわたしが望んだ位置に、わたしは立っているけれども、本当は、出来るなら、わたしは。不意に胸中の自問の声を遮って彼の声がした。見れば、彼は何度も見た笑みを浮かべて、大層偉そうに自身のガンダムに寄り掛かってこちらを見詰めている。

「おい、、おまえそんなとこで何してる」
「人間観察」
「暇人め、こっちこい」




(ああ、出来るなら、)


敵でも味方でもない場所で無責任に尊敬していたかった



092510