夜の闇の中、トレミーへ帰艦するために、知らぬ男と中途半端に交わったホテルを出る。ちょうどそのホテルの前で、わたしが軌道エレベーターまでの地上の道をどう行くか考えあぐねていると、不意に目先の道路脇へ一台のバイクが滑り込んだ。見覚えのある姿に、わたしは目を瞠る、黒の衣服を身に纏った彼は、至極緩やかにエンジンを停める。ヘルメットをしていないなんて、交通法違反よ、とわたしが咄嗟に普段思わないようなことを思ったのは、ただ単に自分の緊張を誤魔化したかったからかもしれない。バイクに跨がったままの彼の黒い髪が、風に揺れる。赤い双眸がその合間に覗いて、きらきらとルビーのように煌めいた。彼を迎えに寄越すよう指示したのは、間違いなくライルだろう。わたしは思わずひとつ、溜息を落とした。

「刹那、どうして、ここに?」
「迎えに行けとの指示だった」
「迎えに、ね」

無機質な電灯の下、わたしは溜息をつきながら刹那のもとに歩み寄って、そっと彼の腰に腕を回してバイクへと跨がる。刹那はほんの少しの間、後ろに座るわたしを横目で見た後、再びバイクのエンジンをかけた。






僕らが望む海底へ


110410