真昼の空で、わたしはきらきらと輝く流れ星を見た。いや、それは正しくは、流れ星のように迷いなく空を滑る大きな鉄の塊だった。しゃら、と音がしそうなくらい綺麗な光が、閃光が、大きな物体を切り裂いて、燃やす。その合間では、鉄の塊が反転、旋回、降下、加速。またひとつ、派手な花火が青空に上がる。そして彼が緩やかにターン。ワルツもタンゴもジルバもブルースもお手のもの、まるでそう言わんばかりの鮮やかさだ。自分の仕事も忘れて、わたしは久しぶりに見るその素晴らしきダンサーに見惚れていた。マイスターとしての洗練されたセンスの良さを披露する彼を見るのは実に4年ぶりのこと。長かったような、短かったような、その4年という月日の間に、17歳だった少年は21歳の青年になっていた。低くなった声、高くなった背、変わらない、真っ直ぐな赤い双眸。数日前に再会した彼は間違いなく前より魅力的になっていたが、しかし果たしてその目に映った女が、まだ彼にとって魅力的であったかどうかは到底不明だ。わたしはひとつ溜息をついてモニターを見る。ふと、見惚れていたガンダムという名の流れ星が画面上から消えて、大きな揺れが私たちを襲った。ミレイナが後ろの方で悲鳴を上げる。その反対側では、フェルトが状況を歌い上げる。わたしは立ち上がって述べられた状況に対応するべくキーボードを叩いた。立ち上がったことに意味はない。つまり、それは単なるいつもの癖であったのだが、しかしそのせいでわたしは次の衝撃に耐えきれずに転び、腰を強かに打った。なんという失態。恥ずかしい。脳内に、いつか言われた冷静になれという言葉が浮かんだ。わたしの悲鳴にフェルトが焦るが、それには笑顔で返して、ゆっくりと立ち上がる。揺れが収まると、ふと、聞き慣れた声がした。



「あ、刹那」
「....無事だな」
「うん、まあ、腰打ったけどね」
「了解」
「は?え、ちょっと」

驚いて言った言葉の途中で、ぷつりと途切れてそれっきりうんともすんとも言わなくなったモニターに、わたしはしばらく恨めしい視線を送っていた。数秒前までそこに映っていた、青年の顔を思い出す。彼は本当は流れ星に乗って違う惑星から来たのではなかろうか。一瞬そんな思考が頭を過る。しかし、それはすぐに先程の会話にならなかった会話の再生によって打ち消された。


「いやいやいや、まさか4年経ってもまだ意思疏通ができないなんてそんなばかな」
「珍しい...」
「なにが!刹那の宇宙人っぷりは今に始まったことじゃないわよ...」
「違う、刹那が通信を入れてきたこと」
「え?」
「こっちから入れることはあっても、刹那からくることはなかなかないじゃない」
「それにそれに、内容もミッションとは関係無かったです!」
「良かったね、
「ラブラブですー」
「え、....」

笑顔で囃し立てる2人を呆然と交互に見て、わたしはもう一度、視線をモニターへと移した。もう、花火はすべて打ち上げてしまったようで、美しいターンも、流れ星のような速い光も、青い空には見当たらない。ただ、腕の良いダンサーだけが優雅に空を泳ぐスイマーへと姿を変えて、きらきらと誇らしげに帰艦するところであった。何だか心臓が熱い。





一瞬で色付いた

111808