I leave you
with a song.














If you close your eyes, anytime, anywhere, you will see your favorite stars.





「中途半端、だったな」


小さく呟く声が木霊する。緩くたわんだ黒い、闇よりも鋭く煌く髪がとても微かに見える。は今更になって運命を鵜呑みにして進んでしまった己をひどく後悔した。憎くもある、この運命はもう二度と繰り返されることはない。しかし同時に、もう二度と触ることも出来ない。修正の効かない自分の人生。狂ったことも判らずに踊り続けていられたなら、それ以上に幸せなことはなかっただろう。

「か...神、田?」

崩れ落ちてゆく寸前のそれは、世界か男か。には鼓膜を壊してしまいそうなほどの音の振動も、頬を裂いて風に紛れて掻き消されていく小石の存在も、すべてがガラス越しの世界で、何もかもを真っ直ぐに、現実味を帯びては、感じられない。愛でさえ錯覚のような気がしてきたら、きっと、それは世界が終わる前兆なんだろう。

「......なに、してん、のよ?」
「うるせえ、よ、てめえの、ために、」

世界を守ってんだよ。そう告げる、ゴーレム越しに聞こえてくる生温い声はやはり近くで聞くそれとは違っていて、背後に隠された彼の本当の気持ちを上手く探ることが出来ない。真っ白くどこまでも続く一本道で、は迷子になって座り込んだ。向かうべき場所なんてもう無くなった。会いたかった人ももういなくなる。

「だから、ムリ、するなって、言ったのに」
「...そうだ、な」

がらがらと、まるでそうなるのが嬉しいかのように、世界は音を立てて落ちてゆく。そこに愛を取り残したまま、理不尽な運命に愛されたと知る賢い二人は嘆かない。嘆かなければいけないことは、きっと無かった。神田はもうよく聞こえない耳を掠める音に耳を澄ませてそう思う。自分たちは十分に愛し合ってきた。過ごしてきた時間にも交わしてきた無数の言葉にも、後悔はない。この愛への未練もない。大丈夫だ、このまま、この命を手放しても心配などない。

「ユウ」

ああ



眩暈がした。無意識に手を伸ばして、しかし掴んだのは崩壊する世界の破片だった。安心させてやりたいときに限って、なんで傍に居られないんだろう。そう思った瞬間にはもう、神田の中で後悔が嘲笑うでもなく、ただ、存在を主張していた。この世の中には満足できる愛などないのに、まだ愛したりないのに、という後悔。渦巻いて揺らいで、すべてが崩れ落ちてゆく中で凛と佇む、それは真実を呼ぶ。もう一人じゃ生きていけないのは、100万人に美しい愛の歌を歌う人間でも、今までに擦れ違ってきた幸せそうな恋人たちでも、まして、死にゆく自分でもなくて。

、」

つらいな、と思った。

「泣きたいときは、ちゃんと、泣けよ」
「...なによ、突然...普段はウザイから泣くなって、言う...くせに...」
「もうおまえが泣く前に、その気持ちを拾ってやる奴は、いなく、なるから」
「そんなこと...!」
「...大丈夫だろ」

辛いときは辛いと言って、立ち止まればいい。目指す先が遠くなるわけじゃない。そして泣いたら、自分たち二人が出会った頃に流行っていた歌でも歌うといい。

「...お前の中の俺の記憶が消える訳じゃない」
「ユウ!」
「じゃあな、元気でやれよ」

何もかもが遠くなっていた、それは世界が分離して消える寸前の出来事。この世界に煌く億千の星の中で、誰一人として経験することの出来ない、自分の人生の中の一瞬。一緒にいられる相手が神田でよかった、はそう思って泣いた。置いていかれる自分を悲しむのも、置いていく彼を離したくなくて泣くのも、この先この両足を動かす、糧にはならない気がした。

「ユウ、......気をつけてね」
「...ああ」

愛してる。神田がそう紡ぐ。あとを、無音の静寂が追い駆ける。は斑に落ちる水分によって小さく円状に湿った地面を両の手で押して、立ち上がって、その確かさを噛みしめる。歩いてゆくには十分過ぎるほどに力強い世界は、まだ続いている。きっと自分はこの世界を歩いていける。崩れ落ちてゆく世界の振動も、風に紛れて掻き消されてゆく小石の存在も、二人の間にあった崩壊する世界と静寂の世界も、どれひとつ妨げることが出来なかった、彼の愛の言葉が、わたしの記憶の中から消えるまでは。








Sing this love song for you living in my memories when I close my eyes and see my favorite stars.









(live as I feel throughout this world every dear moment not to miss anything that you gave to me .)

012706