がやがやと賑やかな店の奥の奥、誰もいない部屋のベッドの上ではカラカラとコップを鳴らして、それをそのまま熱っぽい頬へと当てた。はあ、とひとつ溜息をついて、普段は飲まない薄い琥珀色の液体を、さして飲みたくもないのに口に含んで喉に通す。体が勝手に、飲みたくもない液体を渇いてもいない喉に流し込むだなんて、アルコールというのは不思議なものである。トントン、と柔らかなノックの音がして、はベッドと隣り合った壁に頭を預けてもう一度、茶色い液体を流し込んだ。カラン、と冷たい綺麗な音がすると、ドアが開いて一人の男が顔を覗かせる。


「.....ラック」

「珍しいですね、あなたが」


ブランデーだなんて。緩やかな足取りで部屋へ入ってきたラック・ガンドールは、そう言って優しく笑う。笑顔だけではない、彼の声も、酷く優しかった。はラックが近付いてくるのを、身動き一つせずに待ち受ける。どうやら、少しばかり飲み過ぎたようで、思考がどうにも覚束なかった。ぎし、とベッドが軋んで、暖かなオレンジの照明がふっと消える。いや、消えたのではない。見れば、両手を壁について、覆いかぶさるようにラックがを見下ろしていた。何の音もしない瞬間が続く。熱に浮かされたようなの瞳をじっと見つめて、ラックは静かに彼女の唇を塞いだ。自身が良く飲む種類のアルコール飲料の味がする。の手を離れたコップから、カラン、と音を立てて氷が踊り出した。見る見るうちにシーツにブランデーが染み込んでいく。しかし、そんな事にはお構いなしに、は空いた両手を目の前の男の背中に回した。ほんの少しの息継ぎ程度しか許されない、キスの合間にも見つめあう。ラックの冷えた掌が宥めるようにの頬を何度も撫でて、そっと二人は唇を離した。そうして相変わらずの静寂の中、はラックを引き寄せてそのままベッドの上に倒れ込む。ぎしり、とベッドが軋んで揺れた。一瞬だけ驚いた表情を浮かべるラックが、やんわりと笑う。


「...本当に、珍しい」

「あたしだって、女なのよ」

「ええ、知っていますよ、...ようく、ね」







きみと踊り狂うまで





022509
(キスも繋がり合うこともほんとはもっとしたいの、)