ざあざあと容赦なく降る雨の音が、ガラス一枚隔てた世界を満たしていた。大降りの雨は朝方まで続くでしょう、と少し寒そうなお天気お姉さんが言っていたことを、熱に浮かれる脳裏で思い出す。はあ、と荒い息をつくと、わたしを追いかけて、尊が後ろから覆い被さるように身体を重ねて唇を塞ぐ。小柄と言われる彼も、それより小さいわたしからすれば、他の男と変わらなかった。捕まえられれば力では勝てないし、組み敷かれればすべて彼の影の中だ。、と低い声で名前を呼ばれて、不意に首筋に唇が落とされる。柔らかくて甘い快楽がわたしの歯列の合間から溢れると、尊はわたしの乳房を掴んで、ずず、と幾度も味わわせたそれを背後から中へと押し込んだ。途端に、夜闇に花芽吹くように声が弾ける。吐息に織り交ぜた尊の笑みが耳元で滲む。押し込まれたその質量がわたしの体だけでなく思考のすべてを支配することを、尊はいつもとても愛惜しい、と言った。

「あ、あ、あ...ッ」
「おい、まだ、挿れただけだぞ」
「尊、も、むり...」
「そんなはずねえよ」

お前の体のことは俺がよく知ってる。そういって尊はそのルビーのような双眸を微かに細めると、掴んでいた乳房から手を腹へ滑らせて、そうして艶めかしく雫が溢れるわたしの内腿を撫で上げた。肌が熱を持って、快楽に体の力が抜ける。その隙に尊が自身のそれを奥深くまで沈めれば、わたしの体はもはや彼から与えられる喜びに少しも抗うことができなかった。声が溢れて体が震える。まるで快楽が通る回路を見つけては自分の手で繋ぎ変えていくかのように、尊がわたしの体を知るごとに、わたしは彼に馴染んでいった。お前は俺のものだから、と言って、愛情を隠して勝気に笑う尊はいつも強引だったが、しかし同時に、いつだってわたしの体が無理なく快楽を得られるよう計らってくれる優しい人だった。不意に、びくり、と尊のそれが腹の中で存在を主張して、耳元で彼の噛み殺しきれない吐息が溢れる。質量が増して思わずシーツを握り締める手に、一回りほど大きな尊の手が重なって、上からぎゅうと覆うように握られる。彼が登り詰めそうなことがわかって、愛しくて恋しくて何も考えられない。零れ落ちる涙が、背中に触れる尊の体温が、熱くて熱くて仕方がなかった。

「は...、どう、したい...?」

ゆっくりと律動を繰り返しながら、上気して余裕のない表情の彼は、わたしから一瞬も目を逸らさない。ああ、なんてしあわせなんだ。美しい本能に満ちたアンタレスの瞳が、暗がりの中でもわたしを見失わずに掴まえていてくれる。ぱた、とシーツに涙が溢れて、わたしは一度外した視線をもう一度彼に向けた。尊は一瞬僅かに目を瞠って、少し照れたように柔らかく笑う。そうしてわたしを仰向けにして向き合うと、わたしたちは互いの呼吸を奪い合うように口付けを繰り返して、やがてほとんど同時にその場所へ辿り着いた。それは、二人にしか分からなくて、二人でなければ開けられない、秘密の庭のような場所だった。その庭で、腹を空かせた本能が求めていたものを与え合ってようやく欲望が寝静まると、そっとわたしの頭を撫でる尊の手のひらに宥められて、わたしは繋がったからだもそのままに目を閉じる。土砂降りの雨の音すら聞こえない夢の中で、すきだ、という柔らかな声が、わたしの瞼を撫でていった。



夜が明けるまでは海


040518