08.はじめて
(sing your own life eternally!)

















豪快な人だと思った。
それは笑い方や 行動や 思考回路、
そういった、彼の全てに当てはまる


「…?」

「……あ、れ…三井くん」

「何してんだ?」


ぼんやりと窓辺に座って 生温い風に浸っていたわたしには、彼に返せる答えなど無い。
振り返ってみると、彼は部活上がりらしく 暑そうに制服のシャツのボタンを開けていた。
それを眺めながら
わたしは何となく唇を動かす。


「別に、何も。」

「……ふーん…別に、ねぇ?」


彼も何となく唇を動かす。
その後 溜息をついて近くの席の上に腰を下ろした彼は じっとこちらを見つめていた。
グレていた癖に、その両目は子供のように真っ直ぐだ。
目が合うと何だか気まずくて(いまもそう)
わたしは視線を外へと向けた。
一年生の教室が見える。
あの頃 わたしと寿は何をしていただろう
細かな事は思い出せないけど
色んなことがあったと思う
笑ったり泣いたり怒ったり
結局は寿が人を寄せ付けなくなった所為で別れたけれど
それでも あの教室で息をして一日の大半を過ごしていた二人は幸せのど真ん中にいた。

一番良く憶えている記憶が とても懐かしいのは


「…なあ」

「……うん?」


同じ状況だからだろうか。


「好きなんだけど」

「………誰を?」

「お前以外にここに誰がいんだよ」



二年前の夕暮れの中 あの教室で 初めて唇を重ねた時と今が。

同じ状況だからだろうか。

そうしてくだらなく比較するわたしの生命維持活動を
彼が、止める。
やはり彼自身のそれを止めて。
いつの間に近付いたのか、それさえも 数秒とはいえ現在に居なかったわたしには分からない。
唇が離れて、息を吸う。

彼の温度に満ちた呼吸を吐き出すのは、
何だか とても勿体無いような気がした。


「……み…つ」

「昔みてーに呼べよ、…なんか…窮屈そうだぞ、

「………誰の所為なの」

「いや、それは……」


目を眇めながら 目の前で口篭る彼に手を伸ばす。
口元が緩んだ。
待ってたのよずっとずっと
あの時の夕暮れから少なくとも七百三十回以上の夕暮れを一人で過ごしながら







「待ってたのよ」









わたしがそう紡ぐと、彼は驚いて双眸を瞠り そして屈託無く笑った。











「…おう。」


その笑い方は昔と何も変わっていない。
それでも
伸びてわたしの頭に触れたり 彼の体を支えたり くたびれたシャツに隠されていたり、する、
彼の大きな手や肩は、わたしの知らない新しいものだった。
少し悔しい。
だけどいいのだ。
どうせこれらは今から全て彼と、わたしのものになるから。



「……そろそろ帰ろうかな」

「送ってく。」

「うん。それより…抱っこしてくれない三井君?」

「ああ?抱っこ?」


見たことも無いような生物を見るような目でわたしを見ていた彼は
しかし 渋々とわたしを抱き上げる。
そして


初めて彼の呼吸を止めたわたしに大いに驚いた後












「何が"三井君"だバーカ」












そう言って何が可笑しいのか教えてくれないまま
とても満足気に笑っていた。
そんな彼と手を繋いで歩く。
きっと色んなことがあると思う
笑ったり泣いたり怒ったり、 別れたり 縒りを戻したり

それでも 三年生の教室でサイカイした二人は幸せの一番深いところへ向かう。


ど真ん中から、二人は一番深いところへ。

















050525
(際会したふたり 再会して再開して 一番奥に辿り着いたら 今度は二人で何をしよう?)
三井祭り…ひっそりと。