誰も彼もが満身創痍だった。は荒い息を押し殺すように、白い煙の中にうずくまって倒れ込む。両手の中で、とくん、とくん、と規則正しい鼓動の音がする。轟音にさえ負けないで伝わってくるその響きに、はどうしようもなく嬉しくなって涙をこぼした。次から次へと落ちてくるそれを堪えようにも、感情が大きすぎてどうにもならない。はやく、と願って、は零れる涙の合間に手の内にある暖かな心臓にそっと唇を寄せる。ドオンと一際大きな音がしてまるで地震のように地面が揺れたが、横たわっていても意識が朦朧とし始めていたには、確かにあったはずのその地面の揺れさえ錯覚のようだった。血を流しすぎたかな、とは胸中で呟きながら、響く戦いの音に耳を澄ませ目を閉じる。この腕の中にあるものさえ守れたならあとはもう、どこで死のうが何でも良い。は緩やかにそう思ったが、しかしそれから幾ばくもしないうちに、不意に、ぐい、と強い力で抱き起される。びくり、と体が一瞬硬直するのを感じ取ってか、頭上で、大丈夫だという声がした。


「ロー」
「ああ、おれだ」
「よか...った」

は小さく笑って、ひどく安堵した様子で自分を抱き抱える男に両手を開いてみせた。ローはその手の中にあるキューブに入った己の心臓を見て、しかしそれを受け取るでもなくもう一度を強く抱き寄せる。白煙と轟音の中、彼女の額の上に唇を落として、そうして両目の涙を拭ってやった。

「ありがとう」
「...ふふ...」
「少し、待ってろ」
「...気を付けて」
「ああ」



Alleviate
031013