目を覚ますと、すぐ目の前にローの顔が見えた。それだけで、わたしは酷く安堵していつもなら起き出す時間だというにもかかわらず再び目を閉じる。彼の緩やかな呼吸が耳元をくすぐって寝れやしないが、こうしているだけでずいぶんと心地が良かった。そっとローに体を寄り添わせると、いつから起きていたのか、彼はわたしのぐしゃぐしゃな髪に顔をうずめてぐいとわたしを抱き寄せた。ロー、と彼の名前を呼べば、言葉なのかどうなのかすら判別しかねるような曖昧な音で彼は返事をする。ゆっくりと、彼の胸板に頭を預けてわたしは再び目を閉じた。

「ずっとこうしていたい」

「...なら毎晩抱いてやる」

「過激ね、ロー船長」

「昨日のお前には敵わねェよ」

なにそれ、褒め言葉のつもり?わたしは思わず僅かに眉根を寄せてローを見遣るが、しかし口許に浮かぶ笑みを消し切れずにそのまま小さく吹き出した。見ればローも同じように堪え切れない笑みを静かに口許に湛えている。目を覚ましてからずっと、胸の中が暖かくて、そうして少し苦しい。いつもローの顔を見るたびに、ローの姿を見つけるたびに、切なくなって恋しくなって感じる胸の痛みが、昨日からずっとわたしの中に居座っていて消えてくれないのだ。偶然手にした恋だと思っていたのに、いつの間にか彼はわたしの世界でいちばん大切な人になっていた。いいや、なっていたのではない。彼を愛しいと思うたびに、わたしが彼を、わたしの世界に欠かせない人間にしていったのだ。手を伸ばせば、わたしの指先は難なくローの頬に触れることができる。彼の体に身を寄せれば、当然のように彼はわたしを抱きしめてくれる。こんなに幸せなことが、あるだろうか。

「どうした」

「なんでもない」

わたしの異変に敏く気付いて訊ねてくるローにそう言って、しがみつくように抱きついて顔をうずめると、彼はそれ以上の詮索を止めてひとつ溜息をついた。両目から溢れたしずくが、ローの肌を伝って落ちていく。わたしのなみだに気付かないはずはないのに、それでもローは何も言わずにじっとわたしのからだを抱きとめて動かなかった。しばらくしてそっとその彼の額がわたしの肩口にうずめられた時、わたしはようやくわたしのなみだが彼を苦しめていることに気がついた。きっと、なにかつらい思いをしているのではないかと案じてくれているんだろう。そう思ったら、今度こそわたしの胸は息ができないくらいに切なくなった。この人が好きで好きでわたしはもう死にそうだ。

「ロー」

「ん?」

「わたし、あなたの傍がいちばんしあわせよ」

「本気でそう思うなら笑ってろ」







Cloud 9







032910
(and I finally heard him saying, that's nice to hear though.)