思い返せばいつだって、我々乗組員らは何が起こるか分からない海の上で次の行き先を告げる船長に、決して反論はしなかった。もちろんみんながそういう「いつ何時死んでもうんたらかんたら」という覚悟の上で生きているということもあったが、それ以上に我々を取りまとめる船長に対する絶対的な信頼があったのは言うまでもない。それに何より、海賊船の船長が船の行き先を決めるというのは人類史上ずっと当然のことだったはずだ。だから、我々乗組員は反論などしなかった。いつもならさっさと先に進もうとする船長が、寄り道するぞと言って海賊の天敵である海軍の本拠地に行く決心をしても、やはり我々はいつものように仕様がないなと笑うばかりで何一つ不満をこぼさなかった。海軍本部で戦争をしていることなど、いまや全世界の人々が知っているというのに、知らないのかおまえ、世界政府と海賊が戦争やってんだぞと思わず腕をひっつかんで教えてやりたくなるような飄々さで、彼らは船長の言葉を信じてそれぞれの持ち場につき出航準備を整えはじめる。わたしはこそこそとその合間をすり抜けて、一大決心をしたばかりの船長の姿を探した。船内を探してほどなくその姿を見つけると、彼は自室のドアに凭れかかって何かを思案しているようだった。わたしはその姿を遠目に見て、立ち止まる。何を思案しているのかは知れないが、それでもいつものように声を掛けることは躊躇われた。例えば偉大なる航路に入ってからログポースが何処かを指し示す度、彼は人知れずに一大決心をしていたかもしれない。例えば常に未知の世界と向き合うことが当たり前になる航海なのだと知っていても、それでも仲間が、仕様がないなと笑う度、彼は自分の弱さを恐れていたかもしれない。

か」

不意に声を掛けられて、わたしはその可能性の域を出ない思考を頭の隅に追いやった。見れば、気のすむまで思案したのだろう船長は、どうしたと言ってまっすぐにわたしを見つめている。わたしはそっと、通路を歩いて彼の目の前まで歩み出た。そうして顔をあげて彼の双眸を覗き込むと、彼は無言のまま、やはり真正面からわたしの視線を受け止める。先程の考えの真偽を、確かめる気などさらさらなかった。例えそれがわたしの思い込みであろうと、真実であろうと、一体誰が気にするというのだ。誰も答えを知る必要などない。真実でも虚構でも、彼はこの先も今までと何ら変わらず我々に次の行き先を告げるだろうし、我々はそれをいつもと何ら変わらぬ笑みで快諾するだろう。そうして願わくば、ずっとそういうわたしたちで居られますように。わたしたちの船長が夢を叶えるその日まで、みんな元気で居られますように。

「ふふ...心配してんのか」

「いいえ。だいじょうぶよ、何とかなるわ」

「そりゃ頼もしい一言で何よりだ...そろそろ出航するぞ」







this invincible.








040410
(何かを信じるというのは 何があっても自分の足で立って歩く決意をすること)