「キャプテン!」

「なんだ」

「早くこっちに来て!が泣いてる」


ベポに呼ばれて、ローは緩やかに、女ヶ島アマゾンリリーに古く息づく樹の根から立ち上がった。軽く衣服についた土を払いながら、地面に座ってを抱えるベポの傍に寄ると、確かにベポの毛皮に埋もれて眠るの睫毛は温かな涙で濡れているようであった。ベポは落ち着きなく両の耳を動かしてローを見遣る。

「悪い夢でも見てるのかな...起こす?キャプテン」

「いや...」

寝かせといてやれ、そう言ってローは静かにその場に腰を下ろした。ベポは小さく相槌を打って、再びへと視線を戻す。やんわりとを抱き留めているように見える、ベポのその両腕は彼女が眠る間少しも揺らがない。けれども、柔らかな毛皮に埋もれて眠るが涙をこぼす度、彼の耳はぴくりと動いた。それを目の当たりにする度に、もしもこの女が自分より長生きすることがあったなら、その時は彼に彼女の全てを任せよう、とローは思う。尤も、そうなることなど絶対にない、とも思うローにとってそれは考えるだけ無駄な話でもあるので決して口にはしない。ローは黙ってへと視線を移す。ベポは黙ってを抱き抱えている。暫くの間、辺りには不思議な静寂が漂っていた。青く揺れる海の鼓動、降り注ぐ太陽の恩恵、生き物が織り成す喧騒、何度世界を廻ったか知れない風の匀い。そうしてただ、ゆるりと立ち上がってその場を後にするローの声音だけが、その不思議な静寂の中に一瞬揺らぐ火のように響いて消えた。


「ベポ」

「なに?」

「そいつが呼んだら教えてくれ。麦わら屋を診てくる」

「了解、キャプテン」






Ephemeral







050910
強がって強がって強がって、それで笑って何が幸せだというのだ