両手が塞がるどころか、両肩までを塞ぐ大荷物を抱えて、は大通りを港へと向かう。リズムに合わせて微かに揺れる大量の紙袋は、煌びやかな光沢を持っていたり、シックなデザインで纏められていたり、綺麗な模様が描かれていたりと様々であったけれども、しかしどれもこれもが一様に大きく膨れ上がっていた。随分な荷物ではあるが、それを両脇両腕に従えて歩く彼女は重さなど苦ではないのか重そうな素振りも見せず酷く満足気だ。軽やかに歩く度に潮の匂いが強くなり、徐々に港が見えてくる。海であればどこにでもいるであろう鳥が鳴いた。ふと、はその海鳥の鳴く声の真似をしてみる。だが、あんまり似てはいなかった。鳥に負けた気分で、ちょっとばかり悔しい。

「おい」

人が行き交う港で、ふと声を掛けられて視線を向ける。低くて落ち着いたその声は、が今までに何度も何度も聴いてきた声であったので、彼女にはそれが誰のものであるのかがすぐに分かった。彼の髪はいつか外国の土地で見たメロウな草原の色で、彼の双眸はいつか極寒の中で出会った暗闇のような鋭さ。

「ゾロ」

「おまえその荷物はねェだろ」

買いすぎだ、というゾロはの後ろから追いついて、無言のうちに歩幅を合わせる。見れば彼の手にも些かの荷物が窺えたのでは何を買ったのか訊ねようと思ったけれども、その古風な紙袋から、恐らくは彼の愛刀に関するものであろうということは容易に判断できた。言い掛けた言葉を急に失ってしまっては、そのまま口を噤むしかない。は不思議そうに自身を見返してくるゾロと一度視線を交えただけで、結局何も言わずにただただ幾重にも重なる海鳥の声を仕方なく聴いていた。船に戻るまでの短い距離を、つらつらと二人で歩く。周りを行き交う人々の活気も空を縦横無尽に飛び交う鳥の鳴き声も流れる潮風の匂いも何一つ変わらないのに、ただ一人の男が隣を歩くだけでは極めて満ち足りる心地がした。

「なんだよニヤニヤして」

「べつに?」






メロウ





082909