「承太郎は我慢できるの」

ちゃぷ、と浴槽の湯が揺れる。わたしは夫である男の上に向き合って座りながら、その翠の双眸を見据える。筋肉質で大きな彼の体の上で、わたしはどこか判然としない気分でいた。ふわふわと湯気が漂って、わたしの体を温める。やれやれ、と言って承太郎は浴槽に背を預けたままわたしを眺めた。

、俺はやるといったらやる男だぜ」
「...承太郎のそういうところ死ぬほどすきだけど、今はなんか 自信なくすわ」
「...」
「なに?」
「心配しなくともそんなもんはここから出たらすぐに取り戻すだろうよ」

そう言って承太郎はわたしを抱えて徐ろに立ち上がり、浴室を出る。出た途端注がれる降るような口付けに、入浴で熱くなった体が相まってくらくらした。この人は容易にわたしの理性という鎧を叩き壊して本能を引きずり出してくる。何一つ嘘のつけないまっさらな女にされる。承太郎が洗面台の上にわたしを座らせて、もう一度深く口付けた。もう、どんな風にすれば互いが最も興奮し、心地好いのかをわたしたちは知っている。する、とわたしは殆ど無意識に、承太郎の昂り始めたそれに手を伸ばして触れていた。承太郎が慈しむようにその双眸を揺らしてわたしを見下ろして、ほんの少し、握っていた主導権という手綱を弛める。わたしは承太郎の胸元に一つ口付けを落とすと、指先で触れていたそれを撫で上げて、そっと握る。体格通りの質量のそれが、びくりとわたしの指先に反応して徐々に膨らむのが愛しくて、わたしの中の欲望を鮮やかに染め上げる。指先が熱い。ゆっくりとなぞるように、やんわりと承太郎のそれを掴んで上下に扱くと、やがてとろりとした液体がぐちゅぐちゅと音を立てて手のひらと承太郎の間を滑り落ちていく。もどかしそうに押し殺した熱い呼吸の合間に承太郎がわたしの名前を呼んで、口付ける。それが、彼が主導権を取り戻す合図だ。わたしの手をそっと退けて、承太郎の手がわたしの太腿を左右に開く。承太郎は黙ってわたしの体を隈無く観察するように眺めながら、綺麗だな、と零すように呟いた。慈しむようでいて獲物を捕らえるような視線。ああ、もう、何も我慢できない。

「承太郎」
「なんだ」
「後ろから、して...」

やれやれ、と承太郎がぎらついた双眸でわたしを一瞥する。後ろを向きな、と言われてその視線を掬いながら、洗面台から降りて承太郎に背を向けた。すぐに承太郎が洗面台の縁に手をついてわたしに覆い被さるように屈み、つ、と太腿を伝うほどに溢れた愛液を掬い取って、そのまま数本の指をわたしの中へと押し込んだ。堪える間もなく声が漏れる。ぞくぞくと肌が粟立って、夫である男への愛情と期待と興奮に体温が上がる。承太郎の口づけが髪に耳に首筋に落ちてくる。


「ん、あ」
「入れるぜ」

耳元で柔らかな低音が響く。どんな時でも反応してしまう本能に響く声。一瞬の間、僅かに上がった呼吸がふたつ、豪奢な照明にきらきらと輝く静寂に包まれる。承太郎はわたしの中へ入るとき、いつもこうして一呼吸置いた。タイミングを見計らうというのもあるだろうが、きっとそれだけではない。それによって互いの感情が最も高まるのもまた事実だったのだから。

「ッやあ...!はあ、ん」
「ふ…」

ぞくぞくと背筋を快感が走り抜けて、心臓が喜びに踊る。何度迎え入れたって苦しいのに、何度でも欲しくなる。体の奥深くでいつもより熱くて大きなそれを感じながら、わたしはちらりと自身の上に覆い被さって動かない承太郎を見遣った。ぱた、と頬に水滴が落ちてくる。

「承太郎、いつもより興奮してる」
「てめー、そんなことを言う余裕があるなら好きにして問題ないな」
「ちょっ… ああ、あ…ッ」

耳を食んで、艶のある声で聴覚を刺激してくる承太郎が、大きな手でわたしの腰を捕まえて最も深いところへ自身を押し込んだ。恐らく承太郎以外は聞いたことのないほど純粋な嬌声が響く。自分の体ながら、承太郎のとんでもない質量のものを飲み込んでしまうなんて理解ができず、人体の神秘としか言いようがない。軽く達して身を震わせるわたしを容赦なく揺する男の快感を貪る息遣いと、肌がぶつかる音に酔い痴れながら、わたしはいつものように、もっと一つになりたい、と思った。愛しくて愛しくて、いっその事溶けて一つになってしまいたい。、と頭の上から降る声とともに、承太郎の手のひらが後ろからわたしの頬を撫でる。熱くて、大きくて、力強い手。繰り返される律動から与えられる快感を、腹から湧き上がる愛しさが包んで心を焦がすような熱を生む。はあ、と息を吐くと、承太郎がおもむろにわたしの顎を掴んで視線を前に向けさせた。

「見な」
「あ」

目の前に自分がいる。承太郎に覆い被さられて、一糸纏わぬ姿で、酷く扇情的な表情でこちらを見ている。承太郎より白く柔いわたしの体は、彼の鍛え上げられた逞しい体に捕えられ、さながら贖罪の山羊のようだった。承太郎の体は熱く、わたしより随分大きくて、どうしようもなくわたしたちが男と女だということを意識させられる。ふる、と電流のように走り抜けた甘い刺激に身を震わすと、鏡の向こうの承太郎が息を吐くように口元だけを緩めて笑って、顎に添えていた手を滑らせてわたしの乳房を揉んだ。承太郎の手のひらで餅のように形を変える乳房がやけに艶かしい。いつも見ているはずなのに、一度も見たことのない他人の体のようだ。こんなにも色気のある女だった自覚はない。承太郎にしか引き出せないわたしは、鏡の向こうでとても心地好さそうに息をついて承太郎の手に自身の手を添えた。わたしの体から殆ど自身を抜かず、小さな動きで奥を叩きながら、承太郎がわたしの米神に唇を寄せる。いつもの強い瞳が柔らいで、音も使わず好きだと言う。ぎゅう、と胸の奥が苦しくなって、わたしの双眸から雫が落ちた。承太郎はわたしを全てのものから覆い隠すように強く抱き込んで、スタンドを仕舞いな、と言う。感情が鮮やかになりすぎるとスタンドが発動するのは、何もこれが初めてのことではなかった。

「これはお前の悪い癖だぜ、
「じょうたろう」
「分かっている 好きなんだろう 俺が」
「うん」
「分かっている」

わたしは自分のスタンドがきらきらと光の粒を残して消えるのを視界の端に確認しながら、徐々に腰の動きを強める承太郎の腕の中で本能のままに鳴いた。雄としての欲望や本能に自身を委ねて、この行為の目的を果たそうとする承太郎は美しかった。星を砕いた欠片がきらりきらりと瞬くような命の輝きを持つその身体が、わたしを愛していると教えてくれる。脱衣所はもはや南国の森のように鮮やかで煌びやかな彩りで満ち溢れていた。涙が落ちて、愛しいと示す音が声にもならないまま幾度も生まれる。感情に呑まれた息遣いが肌を伝う汗の合間を縫って、肌と肌がぶつかる度に生命の力強さを思い知る。意匠を凝らした照明がすべてを暴こうと燦々と降り注ぐ中で、承太郎は一際大きく腰を打ち付けると、わたしの体をより強く抱き込んで自身の下から少しも逃すまいとした。それはしばらくの間緩められることなく、わたしは自分の番いの雄に与えられる本能的な喜びに満たされてそっと目を閉じた。耳元に降る唇の温度がひどく心地好かった。






ワールズ・プリムツェリウス

(081117)