可愛い、とははっきり口にした。傾き始めた黄金色の陽光に、その艶やかな唇が煌めく。話題は目の前の男の叔父についてだった。甥に当たる男はコーヒーカップを口許へ運びながら、やれやれと息を吐く。それは初夏の少し早めの午後、カフェ・ドゥ・マゴで休憩を取りながら道行く女性陣の鋭利な視線を賜るのにも慣れた頃だった。

、お前、その単語の扱いには気を付けるんだぜ」
「なんで」
「可愛い、なんて言葉はあの年頃の男に使うもんじゃあない」
「でも仗助が可愛いのは事実だよ 悪意も他意もないわ」

例えばパン屋でお気に入りのパンが買えたと嬉しそうに笑う時や、悪戯をして目をキラキラさせている時や、スンマセンと所在無げに笑う時。さん、と手を振って駆け寄ってくる時や、爬虫類を克服しようと亀と見詰め合う時。それから必ず車道側を選び歩幅を合わせて歩くことも、の視線の先を把握しようとすることもそうだ。はするすると浮かんでくる例えの数々を、しかし口に出しては言わなかった。なんでこんなにたくさん出てくるんだ。もしかしてわたし。いやそんなはずない。でも。ぐるぐると瞬時に考えを巡らせたのち、この感覚に覚えがある、と思う気持ちから目を逸らそうと目の前の男を見ると、彼はどこぞの明王像よろしく眉間に皺を寄せてもう一度息を吐きながら目を閉じた。普通の人間ならその威圧的な造形美と体格で悪夢のような恐怖を覚えるだろう。しかし、は承太郎と付き合いの長い仲だ。昔から親が財団職員だったうえに、スタンド能力が現れてからは、スタンド使いとして少なからず同胞という認識がある。それに、長いことそうして関わっているうちにいつしかは承太郎を兄のように扱うようになり、承太郎も特段それを拒まなかったので、以来、その関係性はずっと健在だ。

「自覚、あるんじゃあねえか」
「少年趣味ではない」
「知らん」
「露伴くんのほうがまだ」
「何の比較だ」
「承太郎」
「おや、仗助」

え、と半ば悲鳴のような音が反射的に出て、居たたまれない心地で後ろを振り返る。しかし何事かとこちらへ視線を向ける通行人らがいるばかりで、予想していた少年の姿は見えなかった。「聞かれちゃあ困るような話だったか?」と、明王がふんぞり返って言う声がする。この人は本当にいつもいつも確信ばかりをついてきやがる。

、てめーのそれは」
「言うんじゃあないッ」
「やれやれ……そうしているうちにも年を取るんだぜ、分からねえヤツだな」




きららかに恋


08162017