空条です。どうぞよろしく。駅前で、見慣れた男が見慣れぬ女を連れている、と浮き足だっていた男子高校生らがその一声に絶句した。予想通りすべての視線が彼女に向けられる中、空条承太郎は溜息を吐きながらその横で沈黙を守り続けた。しかし、もしかして、という彼らの期待と興奮に満ち溢れた視線が自らに移っていることに気が付くと、承太郎はちらりとを見遣ってから3名の少年らにその翠の双眸を向けた。

「俺の妻だ」

上がる仰天の声に、再び注がれる好奇心の視線を感じながら、は苦笑する。改まって妻と呼ばれるのは未だに少し気恥ずかしい。少年らから屈託のない、女として有難いお言葉を賜りながら承太郎を見ると、彼はその双眸を帽子の鍔に隠して酷く静かに佇んでいた。寺に鎮座する明王像のような彼を見るのはあまり良い展開ではない。何か次の話題をとが少年らに視線を戻して、尤も背の高い見慣れた顔立ちの一人に注目すると、ほぼ同じタイミングでその彼は命知らずなほど軽やかに「もしかして承太郎さんちょっと不機嫌っスか?あれ~!?」と笑った。その軽口と表情に、にとっても祖父のような存在の男が彷彿とされる。やはり血は争えないなとが思っている間に、承太郎は帽子の鍔に潜めていた双眸をちらりと晒したかと思うと、その声音さえ使わずに自らの叔父を黙らせた。

「似てるわ」

が軽く耳打ちするように顔を向けると、承太郎は僅かに頭を下げてその言葉を拾う。

「ジジイにか」
「うん、でも承太郎とも似てる」
「…」

は終いには勘弁してくれと言わんばかりに沈黙した自らの夫に笑いながら、ひとつ前に出て今度こそ3名の少年とちゃんとした自己紹介を交わした。康一という少年も、億泰という少年も、義理の叔父である仗助も、みな個性的だが真っ直ぐで良い人そうだった。

さんもスタンド使いなんスか?」
「そうよ」

背後で、彼女も今後しばらくは杜王町に滞在して調査に加わる、宜しく頼む、と承太郎が丁寧に補足するのを聞きながら、はいつか父親が承太郎に同じ言葉を言った時のことを思い出した。あれは夏の暑い日だった。当初、わたしが承太郎の元に嫁ぐことに難色を示していた父親が、自宅の和室で承太郎に対してその一言を伝えるまでには、相当な時間を要した。祖父として孫のためには父親がいた方がよいと思う反面、父として自分の娘が子供を一人で産み育ててきたのを見守ってきたことが、彼の中で承太郎を警戒する理由にもなっているようだった。さらに、離婚したことで承太郎は父親からの信用の多くも失っていた。状況の打開は難しいだろうと思ったが、しかし承太郎は少しも怯んでなどない様子で、結婚できなくても別にいいと言ったわたしに、やれやれ、と僅かに表情を険しくして「とても大事にされているお嬢さんを貰うんだから難しいに決まっているじゃあねーか」と言った。彼が実家の和室に呼ばれたのは、それから間もなくのことだ。父親は承太郎に、どんなことがあってもわたしを守るようにと念押しして「宜しく頼む」と言ったという。

「承太郎、ありがとう」

はそっと背後を振り返って承太郎を見遣る。彼の双眸は帽子の鍔に隠れて伺えなかったが、彼を背後から守るように抱きしめるのスタンドの傍らには、彼によく似た強い瞳のスタープラチナがまっすぐを見詰めて佇んでいた。




君はやさしいライオン


08252017