「失うのが恐ろしくて」

会いに来たわ。そう言っては力無く笑った。暁として里に侵入していたイタチと対峙してから寝込んでいたカカシは、まだはっきりとしない思考のままやんわりと笑い返す。

「...もしかして心配した?」
「......カカシ」

ベッドの上でおどけるカカシに目を眇めて、は少しばかり窓を開けた。新鮮な空気を入れて出来るだけ早く感覚を冴えさせた方がいい。今の木ノ葉は病み上がりのこの男さえも使わなければいけない状況にある。開けた窓に手を添えたまま、は目をきつく閉じて一瞬だけ眉を寄せた。この天才だけじゃない。今や里中の忍が疲弊している。だけど自分を含めこの里の忍は奔走するしかなかった。わたしたちはそれほどにまでしてこの里を愛していたから。

「...すまん、」
「いいのよ、里を守ったのになぜ謝るの」
「いや....」
「有能な忍者と付き合っていくにはそれなりの覚悟が必要なの、覚悟してるわ」

あなたの女を、甘く見ない方がいいわよ。冗談じみた口ぶりでそう言って、傍にあった椅子に座る。外で遊ぶ子供の声がした。平和はまだこの里を見放してはいないのだと思いながら、は着替えを始めるカカシを何とは無しに見つめた。相変わらず細い。


「...ん?」
「おまえこそ本調子じゃないようだけど?」

感情の読めない目がを見る。は苦く笑って窓越しに里を眺めた。確かに、具合は良くない。

「みんな同じようなものよ、今はね」
「...ま、だからと言って軽視していいって訳でもないでしょ」

着替えを済ませたカカシはそう言うと、そうっとの視線を引き戻して唇を塞ぐ。離れたかと思えばまた触れる、啄むような口付けを繰り返して、頬に当たる風に目を閉じた。ベッドに腰掛けたカカシが、傍の椅子に座ったにキスをしようと少し身を乗り出すたびに、首筋から覗く筋肉が動いて引き締まる。は恍惚としたようにただそれを見つめていた。しばらくしてようやく唇が離れると、風がまた頬を撫でる。

「...心配してるの?」
「まーね、お前はすーぐ意地張って引っ込み付かなくなるコだし」

あんまりハラハラさせないでちょうだいよ。そう言って、至極柔らかにカカシは微笑んだ。外で遊ぶ子供の声がする。ああ、まだ、平和はこの里にある。







もう戻らないと知っていたなら



?.?.2007./031109