ゆっくりと、ゆっくりと重たそうには玄関のドアを開ける。途端に耳に飛び込んでくるのは聞き慣れた、いつもの声。リビングでは他人の家だというのにまた今日も相も変わらず男3人が騒いでいるようだ。どうしよう。顔を出していつもと様子が違うことがばれるのもいやだし顔を出さないで様子がおかしいと思われるのもいやだ。 しかしそうやってうだうだと悩んでいる間にリビングへの扉の前に来てしまったので、は思い切ってその扉を開けることにした。もちろん、開けることにしたからには、めいっぱいの気力を振り絞って笑う用意も出来ている。

「ただいま」
「あ、!おかえりびょん」
「遅かったね」
「おや、

生まれつきポーカーフェイスが上手いことを今以上に嬉しく思ったことは無いなと、は苦く笑って胸中で呟いた。扉を開けると犬と千種と骸の3人が想像したとおりにこちらを向いて返事を返して、そうして笑う。

「もうすぐの好きなドラマが入るから、テレビあけといたびょん」
、ご飯すぐ食べるなら、温めておこうか?」
「ううん、あたし疲れたからだるくなんないうちにお風呂入ってくる犬ドラマ録画しといて」

この偽物の笑顔だって、今はどれくらい持つかわからない。ばれるわけにはいかないから、はそれなりの言い訳を作って風呂場に向かう。服を脱いで、浴槽からの湯気が満ちる小さな空間に入って、シャワーからのお湯を浴びる。

「情けないなあ」

怒られて怒られて、でもまだ出来ない。何をやってもまた怒られて、自分が信じてきた一生懸命ってもしかして、ただの自己満足だったの?

「がんばってる、つもりなんだけど、なあ」

つもりじゃだめなのはわかってる。でも言葉の綾で言ってしまうだけで、本当は自分なりに必死で、だからそれが見えないなんて言われたって

「どうしていいか、わかんないよ」

熱いシャワーの水滴に打たれてもなお、それとは違う何かが混じって流れていくのがよくわかる。いやだいやだいやだ。なにもかも全部嫌だ。しごともべんきょうもわたしをしかるあのひともきたいにそえないこのできそこないのわたしも、ぜんぶ消え


「............骸?」

突然の声に、どくりと心臓が跳ね上がっては息を呑んだ。しかしすぐに、しばらくの沈黙で冷静を強引に引き戻したは、見えもしないのに笑顔で引き続いての演劇をする。生まれついてのポーカーフェイス。でも、その間も、目からは音も無くことばがおちつづけている。きづいて

「宅配便が着たので受け取っておきました」
「なによ、もう...なにを言い出すかと思えばそんなこと」
「あと」
「まだあるの?」

どきんどきんどきん。お願いだからはやく行って、また声が震えたがっているからそうなってどうしようもなくなる前にはやく。ああでも、きづかれなかったら、きっとわたしまた、今度はさみしくて大泣きするんだろうな。

「きみは僕をばかにしてるんですか?慰めてあげますから早く出てきなさい、のぼせますよ」

まちがえた。うれしくて大泣きだわ










バスルームからの陳腐なる脱出劇



063008