5月上旬のヒューストン国立墓地は、すでに夏の気配を帯びた白く鋭い太陽光に照らされていた。メキシコ湾からの湿気を含んだ南風が襟元から滑り込んで、じっとりと肌にまとわりつく。テキサスブルーの空から降る日差しが、広大な芝生とその先に続く真っ白な大理石の墓標群を煌めかせている。埋葬式用のパビリオンの屋根の下、座席に並ぶ黒い喪服の列に、通路分の間を開けて続く濃紺の礼装の群は、どれも一糸乱れぬ後ろ姿で微動だにしない。その列の後ろで、いくつかのアーミーグリーンや純白のセーラーに混じる、濃紺の礼装に制帽を纏ったバターブロンドの髪が風に靡く。遺族の列の先、台に置かれた棺を覆う星条旗の赤と青は、屋根の下でさえ反射光により大層鮮やかで、見ればまるで時が止まったかのようにそこから視線を外すことができなかった。

「天にまします我らが神よ」

チャプレンの朗々とした声がパビリオンにぽつりと落ちる。

「我らは今 主の御前に集い 彼がその生涯において 祖国と同胞のために忠実に務めを果たしたことを 感謝をもって記憶します」

池に備え付けられた噴水が起動して水面が眩く煌めき、数羽の水鳥が着水しては飛んでいく。

「どうか 残された家族と戦友たちに 悲しみにある我らに力をお与えください」

パビリオンの下で、風に吹かれる黒の美しいモーニングヴェールが柔く揺れる。

「そして我らが彼の生涯と奉仕を忘れることなく その遺志を胸に歩むことができますように」

パビリオンの外に離れて立つ射撃隊の胸元のメダルが小さく光を弾いている。老齢の神父の声はひとつの揺らぎもなく、ひどく丁寧で、この場で唯一の灯台のようだった。

「主よ 自由と平和のために任務を果たし終えた我が兄弟を いま御手にお委ねします」

続いて全員で唱和する主の祈りが、夏木立の梢の音の中で溶けていく。椅子に腰掛けたいくつかの喪服が微かに震えている。

「我々は その体を地に帰します 地は地に 灰は灰に 塵は塵に」

ヴェールが風に吹かれるたび、野外とは思えないほど静まり返った墓地に小さな嗚咽がこぼれて滲む。周囲に立つ喪服姿のいくつかが、そっと目を伏せる。日光で温められた土の匂いが不意に香って、視界の端で満開のサザンマグノリアの白い大輪が美しくしなやかに揺れた。

「主が与え 主が取られた 主の御名は褒むべきかな」

嗚咽が神父の祈りに混じる。棺の上の星条旗は風にも揺れず、動かない。

「主があなたを恵み あなたを守られますように アーメン」

解けていくほど柔らかな声音の余韻がゆっくりと静寂を連れてくる。神父が一歩下がって頭を下げるのを見届けて、離れた芝生の上の射撃隊の指揮官が動く。

「射撃隊 姿勢を正せ」

その声は、離れていても強く明朗に響いた。構え、という短く鋭い号令に合わせて、数名の射手が小銃を斜めに構える。美しく揃って一分の隙もない動きに続いて、青空の下、パビリオンの先でボルトを引く金属音がまるで一つの音のように同期して鳴る。

「狙え」

全員の視線が射撃隊へ向いている中で、撃て、の合図とともに斉射が行われる。唐突に空気を割る乾いた銃声に、びくりと肩が揺れる。排莢と次弾装填を行う金属音が揃って響き、それが続けて2回繰り返されると、再び辺りは生きたものがひとつもいないかの如き無音となった。鼻先を硝煙の匂いが掠めていく。

「敬礼!」

参列者の先で、弔砲の間、少しも身動ぎしなかった儀仗兵と、礼装を身に纏って参列する軍人が一斉に敬礼する。布の擦れる音が揃って、余韻すら残さない。その美しく一体化した動きの横で、民間の参列者が左胸に手を当てる。きらりきらりと池の水面が光り小さな波を立てている。数秒ののち、離れた木立の下から奏でられるタップスが孤独に響く。物悲しく滲むそのたったひとつの追悼のビューグルの音色が、遠く芝生の先にずっと続く白い墓標の最後の一つまで、静寂を渡っていく。金管が柔らかに揺れる24音を置いていく頃には、遺族と民間参列者の中に数多くの涙が落ちていた。

「敬礼やめ」

一斉に敬礼を下ろし、再び直立不動となった礼装の集団は、ただじっと、棺の側に立っていた儀仗兵らが動くのを見つめる。棺の上にかけられた国旗が水平に持ち上げられ、まるでプログラミングされた動きで折られて小さくなる。テキサスの湿気を含んだ風が涙の中をすり抜けていく。やがて青に白星が鮮やかな三角形になったそれを、儀仗兵が両手で携えて配偶者へ歩み寄る。片膝をつくと同時に、モーニングヴェールの奥で酷く掠れた泣き声が溢れた。

「合衆国大統領 合衆国空軍 および感謝を捧げる国民を代表し 故人の誇り高く忠実な奉仕に対する感謝の象徴として この国旗をお受け取りください」

落ち着いた低い声が、涙の波にも揺られず掻き消されず、少しの迷いもなく口上を紡ぐ。そっと国旗を遺族の手に重ねて預け、しばらくの間、膝をついた儀仗兵は動かなかった。夏木立に囲まれ、眩く輝く数多の墓標がどこまでも続く。視界の端でサザンマグノリアの白い大輪が揺れる。ついに喪服を纏った女の手が国旗を抱えると、その兵は音もなく立ち上がって最後の敬礼を捧げた。そうして式の終了を告げるチャプレンの声を聞きながら、はただその様子を瞬きもなく眺めた。








pyre
08.22.26